第1回サゴリリサーチアワード
サゴリリサーチアワード応募者のみなさま
この度はサゴリリサーチアワードにご応募くださりありがとうございました。
審査結果をお知らせいたします。
第1回サゴリリサーチアワードには、24名と1団体からご応募をいただきました。
審査は2日間にわたって行われ、以下のように受賞者が決定いたしました。
- ○サゴリリサーチアワード大賞 山もといとみさん
- ○特別賞(加納実紀代応援賞) 井上裕加里さん、陳璟(ちん・けい)さん
- ○特別賞(加納実紀代応援賞)は、審査の過程で設けることが決まりました。
賞金はなく、サゴリと同じビルにある居住スペースに1週間、無料で宿泊ができるというものです。
加納実紀代資料室サゴリにはもうすぐ小さなギャラリースペースができる予定です。
サゴリ主宰者の高雄さんのご好意で、サゴリリサーチアワード応募者で、実際にサゴリを訪れたことがある方であれば、最長1ヶ月、無料での使用が可能です。
ぜひとも様々なかたちでサゴリを活用していただければ幸いです。
あらためましてご応募いただいたみなさんに心よりお礼申し上げます。
小田原のどか
⾼雄きくえさんからのメッセージ
加納実紀代資料室サゴリから、⼩⽥原さん、⼭本さん、アワードに応募くださった皆さまへ。
加納さんは、植⺠地・朝鮮で軍⼈を⽗に⼥として⽣まれたこと、広島で5歳のとき被爆したことが、⾃分の「根っこ」にあると⾔います。
⼈⽣のほとんどを市井の研究者として⽣き、「他者、あるいは他国の⼈々をふみつけにしない私たちの解放の⽅向性をさぐるために」銃後史研究を始めた加納さん。
資料室サゴリは、その意志を継承し、さらに現在的課題として深化させていきたいと思い開室して1年がたったところで、⼩⽥原さん、⼭本さんお⼆⼈が、この時期を祝してくださるかのように、アワードを企画しくださいました。まさしく⼈と⼈の「交差点」であり、⼈と社会の「公差点」が⽴ちあがり、「資料室サゴリ」という名前にたくした⽅向性に希望をいただいたように思います。ありがとうございます。
資料室サゴリは、県内外から来室してくださる⽅々の資料室サゴリとの対話によってつくられています。そこにこのたび応募してくださった⽅々が確かな形で加わってくださいました。
こうした「交差」が積み重なり、さらに「加納実紀代資料室」の可能性がひらかれていくのだろうという実感を深めております。
「アートと資料室」の幸運な出会いの現場<資料室サゴリ>で皆さんとお会いできることを切望しております。
⼭本浩貴さんによる審査所感
「脱植⺠地主義」「ジェンダー」「平和表象」「ウーマン・リブ/フェミニズム」「朝鮮・アジア」といったテーマは、その重要性に⽐して、現在の⽇本̶̶美術界、学術界、その他の分野を問わず̶̶では⼗分に探究されているとは⾔い難い。⼩⽥原さんと共編した『この国(近代⽇本)の芸術』では、こうした不⾜の根源に潜む構造や⼒学を析出することを試みた。他⽅、⼩⽥原さんもぼくも、上に挙げた諸テーマを扱う芸術作品の制作や発表を実際的にサポートする必要性を痛感している。そのような問題意識から、この「サゴリリサーチアワード」は構想された。
最近は諸アワードの審査に関わる機会が増え、必ずしも「正統な」ルートを経て美術界にいるわけではない⾃⾝が基準や視点の複数化に寄与することができればと望み、いくつかの審査に関与している。とはいえ、毎回、そのプロセスは難航し、審査員のあいだですんなりと意⾒が⼀致することはほとんどない。実際、今回も、多様な議論が交わされた。だが、⾼雄さん、⼩⽥原さん、ぼくのあいだで最初から合意されていたことは、どの応募者の⽅も加納実紀代⽒が今に残してくれたレガシーと⾃分なりの仕⽅で真摯に向き合い、それを芸術の領域で引き受けようとする気概を有しているということだった。
このような種の短評におけるクリシェのようで恐縮だが、ひとつのプランを選出することは本当に困難を極めた。⼼から、そう思う。いずれのプランについても、これからどのようなかたちで結実するのか、そして展⽰などの機会があれば、ぜひ⾜を運びたいと感じた。個⼈的には、「脱植⺠地主義」「ジェンダー」「平和表象」「ウーマン・リブ/フェミニズム」「朝鮮・アジア」といった上記諸テーマのあいだのインターセクショナリティの強さに評価の軸を据えた。
植⺠地⽀配は、けっして過去の出来事ではない。原爆投下が落とした影は、今もなお世界を覆っている。多くの審査においてそうだが、今回の審査では特に刺激をもらった。応募者のみなさんと共に、ぼく⾃⾝も終わりのない思考と探究の旅を続けたい。その道のりは、きっとどこかで交わることになる。そのときを⼼より楽しみにしている。
⼩⽥原のどか 審査所感
第1回サゴリリサーチアワードの審査を終えて
⼭本浩貴さんと共同編集し、⽉曜社から 2023年11⽉に刊⾏された『この国(近代⽇本)の芸術:〈⽇本美術史〉を脱帝国主義化する』の編集者への報酬を活⽤し、サゴリリサーチアワードは企画されました。この編集者報酬は、書籍の売上げからではなく、書籍の制作費を捻出するため 2022年に開催したオンライン連続講義の売上げから分配しています。オンライン連続講義にご参加いただいたみなさんの⼒添えが、書籍だけでなく、サゴリリサーチアワードにも⽣かされています。
オンライン連続講義の実施は、加納実紀代資料室サゴリ主宰者の⾼雄きくえさんによる連続講義「ジェンダー×植⺠地主義 交差点としてのヒロシマ」に登壇した経験から発想しました。ジェンダーと植⺠地主義という複合的な視点から捉えた「広島」は、この連続講義を経て⾼雄さんの編集による論集『広島 爆⼼都市からあいだの都市へ 「ジェンダー×植 ⺠地主義 交差点としてのヒロシマ」連続講座論考集』(インパクト出版会、2022 年)となるとともに、「交差点」の意味を持つ加納実紀代資料室サゴリとして結実しました。今回、サゴリリサーチアワードによりふたたび⾼雄さんとサゴリと関わりを持てたことを、よろこばしく思っています。
加えて、サゴリリサーチアワードに際して参考にしたのは、わたしが2018年に受賞の機会をいただいた「ALLOTMENT トラベルアワード」でした。ALLOTMENT トラベルアワードは、交通事故により若くして他界した美術家・與語直⼦さんのご友⼈たちによってかたちづくられた、制作旅⾏援助の取り組みです。⼭本浩貴さんも、こちらのアワードとは深い関わりを持っています。
「若⼿美術作家が活動していく中で⽇常⽣活と作家活動の両⽴に伴う様々な問題、または作品を継続して制作していく中での閉塞感といった問題に直⾯する作家に対して、新たな⾏動の機会を与え、前進する制作の⼿助けをすること」を⽬的とする ALLOTMENT トラベルアワードにおおいに刺激を受け、サゴリリサーチアワードの募集要項には「作品制作のためのリサーチを⽀援するだけでなく、制作活動を続けるなかで直⾯する閉塞感などに対し、
「加納実紀代資料室サゴリ」を活⽤して⾏われる新たなリサーチを通じて現状を変えていこうとするアーティストの伴⾛者となることを⽬的とします」と記しました。
現状を変えていくこと、それは喫緊の課題です。『この国(近代⽇本)の芸術』の刊⾏は、飯⼭由貴の映像作品《In-Mates》の上映中⽌事件に端を発しています。国際交流基⾦と東京都⼈権部により上映を忌避された本作をめぐり、関東⼤震災の朝鮮⼈虐殺の歴史を否定し、「⼈権」や「ヘイトスピーチ」を恣意的に運⽤する事態に直⾯し、これに直接的に抗議をするとともに、〈⽇本〉を規定するフィクションとしての⽇本美術史を批判的に検証することは急務であると考えました。
「脱植⺠地主義」「ジェンダー」「平和表象」「ウーマン・リブ/フェミニズム」「朝鮮・アジア」などの明確な主題に取り組むアーティストへの⽀援は、2024年の⽇本において、けっして⼿厚いものではありません。むしろ《In-Mates》が上映を禁じられたように、抑圧され、忌避されていると⾔っても過⾔ではない側⾯があります。意⾒を持ち、⾏動するアーティストへの等閑視も横⾏しています。
こうした状況に抵抗しつづけるために、書籍を編むだけでなく、加納実紀代さんの資料を活⽤した制作を⽀援することで、この国の美術を取り巻く状況のいっそうの変化の呼び⽔となるべく、⾼雄さんと⼭本さんにお⼒添えをいただき、サゴリリサーチアワードを開催するに⾄りました。
さて、2024年4⽉1⽇から5⽉1⽇までを募集期間とした第1回のサゴリリサーチアワードは、コレクティブ1団体と24名の⽅からご応募をいただきました。審査は2⽇間にわたって⾏われ、サゴリリサーチアワード受賞者は⼭もといとみさんに決定しました。また、当初は予定になかったものの、審査の過程で必要が⽣じ、⾼雄さんの提案を受け、特別賞(加納実紀代応援賞)を設けることにしました。
特別賞は、井上裕加⾥さん、陳璟(ちん・けい)さんに決定しました。
印象深い応募案は多くありましたが、わたしは審査において、加納実紀代さんが著作を通じて⽰した、ジェンダー・脱-植⺠地主義の複合視点を有した提案を重視しました。受賞者はほとんど満場⼀致で決定したのですが、とくに付記したいものに船⽊美佳さんの応募案があります。船⽊さんの提案については最後まで議論がなされたものの、惜しくも受賞とはなりませんでした。東アジアへの複層的なまなざしと資料活⽤への期待の観点から、個⼈的に船⽊さんの制作を応援したいと思います。2⽇間の審査を終えて、つくられたばかりのこのアワードに、充実した提案を送ってくださった応募者のみなさんに、⼼から感謝いたします。加えて、惜しみない協⼒をいただいた⾼雄きくえさん、⼭本浩貴さんに、あらためてお礼申し上げます。中村隆⼦基⾦がサゴリ開設に⽣かされたように、様々な⼈の思いと⾏動が交差点のように重なり、わかれ、すれ違い、そしてまた出会い直し、サゴリリサーチアワードにつながっています。受賞された3名のアーティストたちの今後の展開に、ここに⾔及した(そしてここに⾔及できなかった)出来事・⾏動・⼈から得たものの⼀端を託したいと思います。
